ふだらくとかいき
永禄八年(1565年)、和歌山県熊野の浜ノ宮海岸にある補陀落寺が舞台。この海岸の遥か彼方には観世音菩薩が住む補陀洛山があるとされ、粗末な船にわずかな食事のみを積み、補陀洛山を目指して荒波に身を任せ「渡海」する信仰者達がいた。いつしか補陀落寺の住職は61歳の11月に補陀洛渡海することが慣例のようになり、世間もまたそれが当たり前と思うようになった。
主人公の僧侶、金光坊が61歳になったとき、まだまだ自分には修行が足りないと感じられ、渡海を先延ばしにするつもりでいた。しかし彼の渡海を信じてやまない周囲の人々の期待に押され、その年に渡海することを決める。刻一刻と渡海の日が近づく中、金光坊は過去に自分が見送った渡海上人たちの顔を次々に思い出す。彼らの中には、厭世観に囚われた者、最後まで生に執着した者、死を覚悟しすべてを諦めた者などがいた。金光坊にはどの顔も信仰とはかけ離れた顔に思え、自分は一人の信心深い僧侶としてこれらとは違う顔で渡海したいと念仏を唱える。しかしやがて、自分にはこれらの顔になることさえ容易ではないのだと感じられ、どの一つの顔でもいいから自分もなりたいと強く願う。
どこにも納められない気持ちのまま金光坊は舟に乗せられ、海へと流される。
私は仏教系の大学に通っていました。そこにはお喋りをやめない学生に向かって「君たちもいつか死ぬ!」とわけのわからない叱り方をする先生がいました。でも私はその言葉に救われました。いつか死ぬなら、その時が来るまで生きていよう。そう思えたんです。私たちの「補陀落渡海記」も先生の言葉のように、場違いで、空回りのユーモアがあって、わけのわからない確信に満ちた作品です。でも百人に一人、この作品を観て、元気になる人がいますように。そしてそれがアナタでありますように。
原作小説である「補陀落渡海記」の中で特に好きだった描写は、主人公がふと目の前の木の青さや波音に気がつくところ。「長い間金光坊の眼や耳は、そうしたものを受けつけていなかったのである。」と文章は続きます。何かに心をとらわれ思い悩む時、自分の中で伸び縮みする時間と現実がズレる感覚を、私もなんか知っています。今に気づくって、実は難しいのかもしれません。木の青さや波音を、お客さんと感じてみたいと思います。
ごまのはえ
大阪府枚方市出身。劇作家・演出家・俳優。ニットキャップシアター劇団代表。
京都を創作の中心に全国で活動を展開している。
2004年に『愛のテール』で第11回OMS戯曲賞大賞を、2005年に『ヒラカタ・ノート』で第12回OMS戯曲賞特別賞を連続受賞。2007年に京都府立文化芸術会館『競作・チェーホフ』で最優秀演出家賞を受賞。2020年に『チェーホフも鳥の名前』が第64回岸田國士戯曲賞最終候補にノミネート。劇作家、演出家として注目を集めるほか、演劇ワークショップや演劇講座の講師としても活躍している。
2016年より財団法人地域創造派遣アーティスト。
仲谷 萌(なかたに もえ)
1989年大阪府交野市生まれ。
東住吉高等学校芸能文化科にて上方伝統芸能を学ぶ。京都造形芸術大学舞台芸術コースにて演技やダンスを学ぶ。卒業後フリーの役者を経て、現在ニットキャップシアターの一員。外部での出演や造形デザインなどの活動もしている。
「劇王2020」にて、優秀俳優賞「彦いち賞」受賞。
北 航平(きた こうへい)
京都市在住の音楽家、打楽器奏者、アレイムビラ奏者、猫廃人。
幼少の頃よりピアノと絵を始める。17歳でドラムを始め、35歳までプロの打楽器奏者として活動。その後サウンドアーティストに転向、39歳でなぜか世界15カ国以上でCDが発売されるという不思議なデビューを果たす。これまでに全8枚のアルバムをリリース。
その他、3人の音楽家(北航平・高山奈帆子・ミムラシンゴ)によるユニットcoconoeでは、高山奈帆子の神秘的なボーカルやコーラスをフィーチャーした実験的でジャズテイストも感じる、歌ものアンビエントサウンドを聴かせる。これまでに2枚のアルバムをリリース。
自然音やノイズを用いて曇ったアンビエントサウンド、様々な打楽器や生活音を用いた不規則なリズム、少し暗く少し美しく少し切ない感情表現などを融合した、どこか抽象画のような音風景が特徴。
また、ドラマやCM・ドキュメンタリー番組、舞台やアートイベントなどの音楽も手掛け、第51 回ギャラクシー賞CM部門選奨受賞。
現在、創作活動とそれを邪魔するかわいい猫との共存を模索中。
門脇 俊輔(かどわき しゅんすけ)
1981年、北海道生まれ。
2002年、京都大学在学時にニットキャップシアターに入団。2003年、ベビー・ピーの旗揚げに参加。以降両劇団に所属し、俳優、制作、公演プロデューサー等で作品に参加。舞台ではカホン等の打楽器を演奏することもしばしば。
2011年よりKYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭スタッフ。
澤村 喜一郎(さわむら きいちろう)
1982年、高知県生まれ。
2006年、ニットキャップシアターに入団。以降、ほぼ全ての作品に出演する。
劇団外の主な出演に、9時間半にも及ぶアメリカ演劇屈指の大作 KUNIO09『エンジェルス・イン・アメリカ』(2011)や、ばぶれるりぐる『へちむくかぞく』(2019)、下鴨車窓「散乱マリン』などがある。映像作品への出演に、重江良樹監督作品『紡ぎ』などがある。
池川 タカキヨ(いけがわ たかきよ)
1989年生まれ。奈良県出身。役者。2010年に演劇ビギナーズユニット#17に参加。以降、関西の小劇場を中心に活動を続ける。いくつかの過去作品への参加を経て、2018年にニットキャップシアターに入団。特技はギター弾き語り。
近年の出演作品
劇団とっても便利『美しい人』(2020)
ももちの世界『カンザキ』(2019)
石原正一ショー『西の遊のキッコ』(2018)
西村 貴治(にしむら たかはる)
京都府出身。
1997年、演劇企画集団「THE
ガジラ」鐘下辰男主宰塵の徒党に参加。以降舞台を中心に活動。
30代を家業に費やし気づけば40代。厄年をきっかけに役を獲りにと5年程前より京都を中心に芝居をはじめる。
主な出演作
演劇企画集団 The ガジラ『ベクター』
ニットキャップシアター『カムサリ』『ねむり姫』
烏丸ストロークロック『新・内山』『凪の砦、vol,1~6』
伊丹アイホール主催公演『イタミノート』
下鴨車窓『純粋パレス』『散乱マリン』
RoMT『十二夜』
山谷 一也(やまたに かずや)
2003年ひらかたパーククラウンアカデミー入所。次年よりパフォーマンス活動開始。2007年より木原アルミとのマイムユニット「パーカーズ」を結成。商業イベントやお祭り、園や学校で活動をする。
個人では2007年『石膏くん』天保山大道芸フェス出演。2010年京都演劇フェスティバル『コカンセツ』で観客賞受賞。豆腐好き。
2021年4月よりニットキャップシアターに入団。
高田 晴菜(たかた はるな)
山口県出身。京都造形芸術大学 舞台芸術学科卒業。料理とパン屋巡りが趣味。中高生の頃演劇に興味を持ち、大学で本格的に演劇を学ぶ。卒業後は、京都で俳優活動を続ける。
2021年3月びわ湖ホール舞台技術研修〜人材育成講座〜成果発表公演『不思議の国のアリス』出演。同年8月IN SITU×KAIKA『アルカディア』演出補佐。
2021年4月よりニットキャップシアターに入団。
劇団の公演では、『ヒラカタ・ノート』、『豊岡物語2021』、『さるものは日々にうとし』に出演。
山本 魚(やまもと さかな)
1997年生まれ。
京都大学に入学後、劇団ケッペキに入団。衣装・小道具・役者として活動する。劇研アクターズラボ+このしたやみに参加し、『三人姉妹』(アントン・チェーホフ/初演・再演共)、『友達』(安部公房)、『ヒネミ』(宮沢章夫)に出演。2021年にニットキャップシアターに入団、『ヒラカタ・ノート』から公演に参加する。
コトリ会議『晴れがわ』、若だんさんと御いんきょさん『棒になった男』、劇団トム論『岡田世界一周の旅』等にも出演。
ピアノとフルートができる。
髙安 美帆(たかやす みほ)
俳優、振付演出家。大阪府八尾市生まれ。8歳から浪速神楽をはじめる。近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻に入学し、演劇、舞踊を学ぶ。同大学卒業後、俳優としてエイチエムピー・シアターカンパニーに参加。近年は、振付演出家として「神楽」や「伝統芸能」をテーマにした舞台作品を異分野の表現者とともに創作している。
石原 菜々子(いしはら ななこ)
東京都足立区にて育つ。高校卒業後、東京の小劇場にて活動。
2012年に劇団維新派『夕顔のはなしろきゆふぐれ』に出演。同年11月、維新派に入団し大阪に移住。2017年解散まで全ての作品に出演する。
2018年より元維新派の金子仁司と共にグループ「kondaba」を旗揚げ。都市の中に上演場所を探し、その場所が持つ規則や制約、身体との関係性に着目し作品を創作する。
グループ外でもMonochrome Circus、akakilike、極東退屈道場、ピンク地底人3号などの作品に出演。
〈都市〉〈移動〉〈あそび〉をテーマに自身の創作も行う。手話勉強中。
木下 菜穂子(きのした なほこ)
奈良県出身。2000年劇団俳優座演劇研究所に入所。2006年出産を機に休団。2012年退団。2017年関西小劇場を拠点にフリーとして活動再開。
近年は演技の自主トレーニングチーム「ひろきの姉たち」を立ち上げ関西で映像制作に携わるプロの監督や技術者達をゲストに招きながら積極的に活動中。
座右の銘は『All we have is now』
近年の主な出演作
南船北馬『さらば、わがまち』
月曜劇団『ゆるやかな結び』
カラ/フル『海のホタル』
MODE『魚の祭』『見よ、飛行機の高く飛べるを』 他