皆さんこんにちは。ウェブ管理者の門脇です。
今回の公演「踊るワン‐パラグラフ」に向けて、
ニットキャップシアターの劇団員が「ワンパラ」を解き明かす七つのキーワードに迫る『7¶』のコーナー。
その1は、澤村喜一郎がお届けする「私のミステリー体験」です。
「ワンパラ」はシチュエーション“ミステリー”コメディ作品ということで、この「ミステリー」の部分に迫るんですね。
わかります。

今回は澤村が聞き手となって、京都市在住の男性、K.Sさんのミステリー体験を語ってもらった、
とのことだったんですが、僕の手元にはテープ起こしされた謎の原稿と、写真数枚が届いておりまして……。
とにかくそれを掲載させてもらいますので、どうぞ……

 | 私のミステリー体験 【K.Sさん】

澤村 どうもこんにちは。今日はこのような場をもうけていただきましてありがとうございます。皆さんこういったことはなかなか語りたがらない人が多いもので…。
K.S こんにちは。いやぁ、僕もお話をいただいてから決心するまでなかなか気持ちが付かなかったですね。
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今回の語り部 K.S氏
澤村 そうですよね。では、早速ですがそのミステリー体験を…
K.S はい、けどまぁその…、ミステリーというかとにかくあんな体験したことなかったもので…。っていうかここはかなり怖いですね
澤村 すみません。ミステリー体験なんで思い切って夜の伏見稲荷に(苦笑) あっ、大丈夫ですよ。気持ちの整理をつけながらゆっくり話してもらえれば。
K.S えー、怖いので早く終わらしたいですね。すいません。
澤村 僕も他のスタッフもかなり怖いんですね。(撮影の藤田かもめ、ADの織田圭祐がいる)
K.S えぇ、それが起きたのは僕が大学3回生の時でした。ちょっと最初に説明しなきゃいけないんですけど、僕はもともと凄く眠りが浅いんですね。次の日に予定が入っていたりすると特に。だいたい寝ながらそろそろ起きる時間が近づいていることに気づくんです。
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語り始めたK.S氏
澤村 へー、それは凄いですね。目覚まし(時計)要らずじゃないですか。
K.S それだけだと良いんですけどね(苦笑)
澤村 と、言うと?
K.S 夢っていうのは眠りの浅い時間帯に見るものなんですね。
澤村 あー、レム睡眠とノンレム睡眠とかいうやつですよね?
K.S 良くご存知で。まぁ、詳しいことをここで話していても仕方ないんでパスしますけど、眠りが浅いときに夢を見るんです。90分周期とかで深い時間と浅い時間があったりするんですが、僕の場合浅い時間が異様に多いと。
澤村 どうなるんですか?
K.S 人は一回の睡眠で2〜3本くらいの夢を見るらしいんです。それで、覚えていたりするのは起きる前に見てた夢の断片だったりするんですけど、僕の場合は浅い時間が多いので見てる夢の本数が多くて、一晩で5〜6本くらい見てたりするんですね。
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澤村 えっ? そんなに
K.S しかもそれを全て覚えたりするんです。大体は「夕べは4本くらい見てたなぁ」って終わるですけど、ひどいときは「1本目は殺人事件で、2本目は葬式が舞台で…」とかって覚えたりするんです。
澤村 しんどくないんですか?
K.S しんどいですよ。脳みそがものすごく疲れているってわかりますからね。寝起きに凄く糖分が欲しくなって、「おめざ」が必要になると(笑)
澤村 それは辛い。で、今回はその夢に関するミステリー体験だと…?
K.S はい、すいません。前置きが長くなってしまって。
澤村 いえいえ。
K.S その晩も夢を多く見てましたね。たぶん4本だった…かな。宗教っぽい関係の夢を見て、2本目がもうちょっと忘れてしまってて、3本目がバイト先の夢を見て、最後の4本目だったんです。
澤村 ほう。
K.S 凄い嫌な夢でね。悪魔が出てきたんですよ。うっとうしく僕に嫌がらせを仕掛けてくる。
澤村 どんな悪魔でした?
K.S かなりリアルな・・・あっ、リアルってよくわからないですけど。アニメや漫画に出てきそうなキャッチーな奴じゃなくて、タロットカードとか童話の挿絵に出てきそうな生粋の悪魔みたいな。
澤村 かなり怖い奴ですね。何をされたんですか?
K.S 僕が走って逃げていて、追っかけてくるんです。森にある一本道みたいなところを逃げていってですね、その悪魔は蝿がまとわり付くようにしつこく僕の周りを飛んでいて、僕は頭の上を払いながら必死で逃げるんです。何が恐ろしいって悪魔の羽音ですね。凄く生々しく飛んでいる音なんですね。「夢の中なのに…」って思いましたよ。「バッサバッサバッサ」ってうるさいんです。
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澤村 ひどい夢ですね。
K.S 多分僕はかなりうなされていたと思いますよ。激しく寝返りとかうってたと思います。しばらく逃げると、森がひらけて平野に出たんです。するとその悪魔が僕の数メートル前にゆっくりと降りてきました。大体地上から1メートルくらいにですかね。その高さで宙に浮いているんです。ヘリコプターがホバリングしてるみたいに…。その間もずっと羽はバサバサと音を立てていて、僕にはその音がうるさくて仕方なかったんです。
澤村 音つきの夢は結構見たりするんですか?
K.S ないわけではないんですが、マレですね。あと最初に言い忘れていたのですが、僕は眠りが浅いので夢の中で自分が夢を見ているっていう意識があるんです。「俺は走ってにげてるんだなぁ」とか「」第三者的な目線で夢の中に意識が存在してるんです。他の人もあるようなんですが、僕の場合ほぼ全ての夢に意識が存在しています。
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澤村 えっ、じゃあ夢の中で「観賞」している自分がいるってことですか?
K.S そうなるんですかね。映画を観ている感じに近いですね。そんでまた夢が気に食わなければ、気に入るように捻じ曲げたりすることも出来るんです。
澤村 夢のあらすじを自分好みに書き換えていくってことですか?
K.S はい、夢によっては全て自分好みに書き換えられないこともありますが、ほとんどの夢の場合多少の変更が効くようになってます。夢と妄想の境があいまいになってるのかもしれないですね。
澤村 じゃあ、その悪魔の夢もいじろうとした?
K.S はい、けれど不思議なことにその夢はまったく「操作」が出来なかった。ちゃんと意識は夢の中にありました。もう本当に羽音が不快で嫌気がさしていましたから、何とか曲げようとしましたよ。けれど夢は変わらなかった。
澤村 いつもと違うわけですよね? 焦ったりしました?
K.S ぞっとしました。見てる夢が夢でしたから。悪魔の呪いだと思いました。そこで初めて気づいたんですが、悪魔は夢の主人公である、つまり走って逃げている僕を見てなかったんです。夢の中で観賞していた僕の意識の方を見ていたんです。夢の中で「ヤバイ」って思いましたよ。夢の中の意識はいわば自由に世界を動かせる「神」みたいな存在だったんですから。まさかそれが見透かされていたなんて思ってもみなかった。
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澤村 (言葉をさえぎりながら)それで悪魔は何かしてきましたか?
K.S それが何も…。ただ笑ってこっちを見てるんです。嫌な笑い方でしたよ。ニヤニヤと笑いながら「お前のことは何もかもお見通しなんだよ」って言われているみたいでした。その間、羽音はどんどん増すばかりで。もう僕は嫌になってこうなったら起きるしかないと思いました。それを見透かした悪魔は少しづつ近づいてきました。「ヤバイ、早く逃げなきゃ。早く起きなきゃ」って僕は必死で起きようとしました。「覚醒」はうまくいきました。悪魔が僕に触れる前に徐々に夢から覚めていきました。今までにない感覚です。大体は飛び起きたりするものなのですが、本当に「覚醒」って言葉がピッタリくるように起きていったんです。けれどそこでおかしなことに気づきました。
澤村 どうしたんですか?
K.S 覚醒していってたのですから、悪魔の姿はフェイドアウトするように消えていったんです。けど…、…。
澤村 けど…、何ですか?
K.S あのうるさい羽音だけは消えなかったんです。視界は白から現実の部屋に戻りつつあったんですけど、あの羽音だけは消えることなく、それどころかより大きさを増していったんです。
澤村 どうなっていたんですか? 悪魔は?
K.S 目が覚めると飛んでいたんです。僕の顔すれすれを、…
澤村 まさか悪魔がですか?
K.S いや、鳩が。
澤村 えっ、鳩? 鳩ってあの鳩? ジョン・ウーの映画に必ず出てくるあの鳩?
K.S ジョン・ウーって(笑) 他にたとえあるでしょう(笑) あははは。
澤村 ちょっと待ってミステリー体験でしょ?
K.S (かなり喜んでいる様子、さらに相手をからかうように話し始める) あはは、これだって立派なミステリー体験でしょ。いやね、寝苦しくて網戸にして寝てたわけ。そしたら網戸が破けててその隙間から鳩が入ってきたの。いやぁ、びっくりしたのなんのって。寝起きだよ! 寝起き。そしたら部屋中をパニックになった鳩が飛びまわっているんだから、それを見た俺もパニック。奇襲だね、奇襲。あっ、紀州じゃないよ、奇襲。桶狭間だよね。今川義元もびっくりって感じだよ。ヒッチコックの映画思い出しちゃったよ。鳩の奴、壁から壁へとぶつかりまくって飛び回ってるの。そうだよね、出られなくなっちゃったんだから。しかも鳩って壁にぶつかるたびにショックでウンコ漏らしちゃうの。悲惨だよ、部屋中ウンコだらけ。掃除大変だったんだから。だってその日大学自主休講しちゃったもん。今でこそ笑い話だけど、その日一日ブルーだったもん。
澤村 (ため息) それだけ?
K.S えっ、うん、そう。ひょっとして怒った?(笑)
澤村 …。(終始無言になる)
K.S まーまー、だって俺ミステリー体験なんてないもん。霊感なんてないしさ。お前がどうしてもって言うから、こうやって神妙な感じで喋ってあげたんじゃん。ねぇ?そういうことじゃないの?
澤村 はぁ、ふざけんなよ。馬鹿!!!!
数分にわたり喧嘩の音が録音されている。
その場にいた藤田、織田らがが喧嘩を止めようとしているが、澤村は怒り心頭の様子で言うことをきかない。
しばらくして織田が引き離したようだが、澤村はそのまま下山してしまったようだ。
「ハアハア」と皆の息が乱れているのが聞こえる。
K.S イッテェ、くそっ、あいつマジで殴った。ホンマにキレてたな。 どうしよかぁ?(カメラマンとして同行してた藤田かもめに)
かもめ 知りませんよぉ、どうするんですかぁ?(半泣きになっている)
K.S まぁ、レコーダー回してるんやし、君が適当にまとめたらええやん。
かもめ 私、無理ですよ。どうしてくれるんですか? 締め切り間に合わないじゃないですか。ただでさえ、門脇さんから催促のメールがきてるのに。
K.S しらんわ。帰るわ。
かもめ あっ、待ってください。私ほんとに無理ですって。ちょっと待ってくださいよ。
K.S はいはい。(立ち上がる)
かもめ ちょ、ちょっとぉ
K.S うわっ!!
全員から叫び声があがる。
どうやら明かりに使っていた蝋燭の火が、突然消えたようだ。
藤田は特に動揺した様子で、叫びまくっている。

しばらく会話にならないやり取りが聞こえてくる。(この間約5分)
織田がライターを出して蝋燭に火をつけなおしたようだ
みんな怯えているのか、この後の声は震えている。
かもめ (完全に泣いている)全部嘘なんですよね?
K.S いや、ホンマやねん。悪魔に追い掛け回されたのとか。
かもめ けど、夢の話なんですよね? 本当に夢の中で意識とかあるんですか? あたしなんて夢なんかほとんどみないですよ。
K.S うん、あるよ。
かもめ 嘘ですよね、嘘ですよね?
織田 ホンマにやめてくださいよ。ねぇ、ねぇ!!
突如、バサバサバサバサバ、という羽音が録音されている。
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録音はここで途切れている……
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