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『チェーホフも鳥の名前』の魅力に迫るシリーズ

ニットキャップシアター × 田辺響


高原綾子が、作品の観どころ、楽しみどころをお伝えしていく
『チェーホフも鳥の名前』の魅力に迫るシリーズ。

今回ご紹介するのはパーカッション奏者として劇中音楽を担当していただく田辺響さんです。

田辺さんとのお喋りと、今回劇中で使う楽器の紹介を交えながら、田辺さんの魅力に迫ります。

田辺 響(たなべ ひびき)
アフリカの楽器 "アサラト" を手にした事でリズムの世界・世界のリズムへ。アサラトのみで構成されたパフォーマンス集団 "鴨印" 、指揮型即興打楽器オーケストラ "La senas"、コミックHIPHOPバンド "ザ ストロングパンタロンX" にて活動中。
近年ではアジア、ヨーロッパなど海外でのパフォーマンスやワークショップも好評を得る。またフリーのパーカッション二ストとして、これまで様々なプロジェクトやバンドに参加。
2017年より世界の楽器、民族楽器を取り扱う専門ショップ "RAGAM(ラーガム)" を開店。
世界各国の楽器や音楽文化を紹介する講演やワークショップも各地で行う。
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田辺さんとニットの出会いは、2014年でした。京都の小さなギャラリーで『サロメ~フルーツスキャンダル~』という公演をした時に、公演後のおまけイベントのゲストとして田辺さんに出演してもらいました。

当時、田辺さんは色んな国の楽器を取り扱っている「コイズミ楽器」の店員さん。ニット版『サロメ』の劇中でも色んな民族楽器を使っていて、おまけイベントでそれぞれの楽器の紹介や解説をしてもらったのが始まりでした。

民族楽器コイズミ
京都の寺町通にある民族楽器屋さん。
ニットキャップシアターでは、2011年の『ピラカタ・ノート』の頃から、役者が民族楽器を使って劇中の効果音や状況音を演奏する演出を取り入れています。その楽器の調達や相談のために「コイズミ楽器」にはしばしばお世話になっています。

そのとき田辺さんから聞いた楽器の解説が、ものすごく面白かったんです。1つの楽器から、その楽器がうまれた土地の風土や民族性、歴史背景がみるみる明らかになって。楽しそうに話をしてくれる田辺さんと共に、観客も出演者もとても豊かな時間を過ごすことができました。

田辺さんにはその後にも、2015年にアイホールと座・高円寺で上演した『カムサリ』という作品に音楽アドバイザーとして関わってもらい、ついに今回の『チェーホフも鳥の名前』では同じ舞台上で初共演することになったのでした!

※ここからは、田辺さんと高原との対談形式でお届けします。合間に、田辺さんによる楽器紹介の動画も交えてお楽しみください。

──アフリカのリズムは通信手段

高原:
(田辺さんの楽器紹介動画を取り終えて)楽器紹介だけで本当に面白いですね。王様という存在が登場した以降に芸術としての音楽が発達していくけど、その潮流は主にヨーロッパやアジアが担っていく。その一方で、アフリカではリズムが発達していったんですね。
田辺:
何でアフリカのリズムが豊富なのかというと、リズムにはお喋りみたいな意味が込められていて。このリズムだったら成人式だとか、結婚式だとか、王様が来たらこのリズムとか、リズム一つ一つに意味があったりする。しかも、サバンナという広いところに住んでるから、隣の村に伝達しようと、集落から集落まで伝言ゲームみたいにして伝えていく。まあ回覧板みたいな感じでね。通信手段として発達していくんですよ。音速で進んでいくから結構早いという。
高原:
へー!! リズムは「伝える手段」だったんですね。それっていつ頃の話なんですか?
田辺:
大航海時代、コロンブスがアメリカ大陸を見つけた頃に、奴隷貿易っていって、アフリカ人が奴隷としてアメリカに連れて来られるんですね。白人たちは、アフリカの人たちが打楽器を使って通信できることを知っていたから、彼らから楽器を取り上げちゃう。でもアフリカから連れてこられた人たちの、その体に染みついてる「リズム」までは奪えない。だから楽器がなくても、机とかを叩いてリズムで伝えることができたんです。そこから新しく木箱を使ったカホンという楽器ができたり、リズム感を活かした新しい音楽も生まれてきます。
アフリカ人のリズム音楽と、白人たちのメロディ、コード、ラインがミックスされて、ジャズとかブルースとか、ラテンの方に行くとサンバ、ルンバ、マンボであったり、そういう新しい音楽が生まれていく歴史があります。
高原:
リズムって数えきれないほどパターンがあると思うのですが、どう覚えるんですか?
田辺:
もうそれは完全に口です。
高原:
口と耳?
田辺:
そうそう。譜面に起こして、アフリカ人の人と一緒にやったときに思うんですけど、譜面では例えば16分音符を並べていって「タッタタ、タッタタ」ってなってる。でも、実際にアフリカの人が叩くとめっちゃ訛ってるんですよ、後ろ乗りだったり前乗りだったりして。それを西洋音楽が開発した五線譜の楽譜に当てはめてみるけど、そこからさらにスイングして「ンタッタタ、ンタッタタ」て、「おー、モタってるー!!」みたいなね、それがもうすごくて。それは現地の人と一緒に習ったり、しっかり練習しないとその感覚はなかなか身に付けられない。やっぱ僕は日本人として日本で育って、普段からそういう音楽を聞いてないから、僕のリズムにはめると、なんかすごい残念な感じになる。
高原:
さっき「訛ってる」って言ってはったのが面白くて。リズムが通信手段だったということは、方言みたいな、その、土地のリズムにもひずみがあるってことですよね。
田辺:
ありますね。リズムってそもそも生活の中から生まれてきてます。畑耕すときに、歌をうたいながらしたりする「うんとこしょ、どっこいしょ」とか。皆でお神輿とか重いものかつぐときの掛け声でも、「せーの」とはいかないで、「えーいしょ、よっこいしょ」みたいな。あれがリズムですよね。そのアフリカの言語があって、そこからのリズムなので、やっぱり訛るんですね。
高原:
生活と密着しているがゆえに、そこからリズムが影響を受けるっていうのが、すごい面白い!
劇中使用楽器紹介

バラフォン(マリンバ)

バラフォン(マリンバ)
西アフリカの木琴で、マリンバの祖先にあたる楽器。
共鳴器にひょうたんを使用し、横に開けた穴に蜘蛛の卵膜を貼りつける事で「ブォンブォン」と独特なノイズが鳴ります。生楽器でありながら、電子音のような音色が面白いです。

──楽器との出会い

高原:
楽器を紹介するときの田辺さんって学童のお兄さんみたいで、楽器たちも田辺さんを慕ってるように見えるんです。楽器に対する愛着が高い人、という印象が強くあります。田辺さんが最初に触った楽器って何だったんですか?
田辺:
最初は、ピアノとか、鍵盤楽器をやらされてた感じやったから。3歳とか中学校とかで、全然習い事って感じで。
高原:
ピアノされてたんですか?
田辺:
してたっすね。今はもう全然弾けないですけど。
高原:
えー! 意外!! それは、お家の方から「習いなさい」と言われてとかですか?
田辺:
そうっすね。親父がそういう鍵盤の仕事してました。オルガンですね。パイプオルガンじゃなくて、ハモンドオルガンていうね。それで講師したりとか、演奏したりとか。
高原:
そうだったんですね。
田辺:
もう気づいたらやってた感じやったから。全然興味なくてね、毎週練習行くの嫌でした。やることもセッションとかじゃなくてクラシックやから、楽譜をちゃんと再現するのが良いとされていて、その美しさもいまいちピンと来てなくて。もちろん、ピアノ弾けるのはいいなーとは思うけど、どっちかというと、嫌~ぐらいの感じではよ辞めたいと思ってた。中学生ぐらいまでやらされてて、自主性は全くなくて、全然楽しめてなかった。ちょっと音楽の授業が楽ちん、簡単っていうこと以外にメリットはなかったですね。
高原:
意外でした。そういうスタートだったんですね。すぐそばに音楽や楽器があったけど、キラキラすることはなく?
田辺:
全然全然。何とかしてピアノを止めたいと思って、なんか理由ないかなと思って、そろそろ指が痛くなってきたとか言い出して(笑)。鍵盤が重いからとか言ったら。じゃあ、「エレクトーンあるからエレクトーンやれ」みたいになって。エレクトーン鍵盤軽いからって。でも、ベースに足とかも入ってくるからもっと大変やし(笑)。エレクトーン披露する場もないし、発表会の場にも出たくないし。なんか昇級試験のためだけにこなしていくみたいになって、こんなん全然面白くないわってなって、12歳か13歳のときに止めました。
高原:
それが田辺さんの音楽歴の中で、第一期のときですか?(笑)
田辺:
そうそう、第一期。そこから、音楽やることに全然興味なくて。でも中学校時代からJ-POPは聴き出して。スピッツとか、ジュディマリとか、X-JAPANだとか。聞くのは楽しいけど、音楽やるってことに抵抗感があって、その状態がしばらく高校まで続いてたと思います。で、高校ぐらいでHIP-HOPとかブラックミュージックとかレゲエとかロックとか聴きだして。それは音楽的な美しさよりも、社会に対しての反社会的なメッセージの方が強かったりするから、「あ、こんなこと言っていいんや」と思って。わりと温室育ちやった気がするから、「社会にNOみたいなん、いいやん!」っていうのが反抗期と相まって。
高原:
(笑)。面白い。急展開!
田辺:
そう。それで、HIP-HOPとかレゲエとかブラックミュージックとか聴くようになりました。当時、HIP-HOPは音楽というか、音楽未満という風に扱われてたから。金もないし技術もないっていう黒人たちが、昔のJAZZとかソウルのレコードを持ってきて、レコード2枚使って、ブレイクっていう歌の入ってない間奏部分だけをループさせて、それでずっと踊ったりするから結構衝撃やって。ブレイクの部分だけ抜き出して、そこだけくり返す。音楽っていっても、人の音楽ですよ? マイルス・デービスとか、ジョン・コルトレーンとか、昔の超有名な人が出したレコードを、その5秒間だけをずっと繰り返したりするから。それに自分の歌のせて、CDにして売っちゃうっていう。え、それヤバい!! すげーなって(笑)。
それで黒人たちのそういうパワーとかに感化されて、その音楽を聞いてみようってなって。じゃあ、その音楽がすごいいいんですよね、それが高校3年間の短い間で。
高原:
濃いですね。
劇中使用楽器紹介

チャンゴ

チャンゴ
朝鮮半島の太鼓、木製胴の両側に皮を張り紐で具合を調整します。
日本の鼓を大きくしたような形で、本来はバチで演奏するのですが、今回は手と足を使って音程を調整しながら演奏します。
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──新しい音楽、音を掘る

田辺:
よかったー、音楽面白い! ブラックミュージック面白い! ってなって。ソウルとかJAZZとかも黒人の音楽やから、そもそものルーツってなんなんやろって思ってアフリカの音楽を聞いたら、もう全然JAZZとかソウルではないし。「ドカカドカカ、ドドド、ボゴンボゴン」みたいな。「え、何~? この音楽~!」ってなって(笑)。
JAZZとかソウルはまだ五線譜とかコードがあるけど、アフリカの音楽って全くそういうのが通用しない。HIP-HOPもかなり通用しない音楽やったけど、さらにさらに通用せーへん。だからめっちゃ衝撃受けて、「このリズムのモタり方は何?」とか、音楽の概念がガラッと変わって、アフリカの音楽がすごい面白いってなっていったんです。アフリカがこんなに面白かったら、じゃあエジプトの音楽を聞いてみようとか。全世界全民族にそういう音楽があると思ったら、一気にその音楽の視野っていうのが広がる感覚というか。今まで和食の味噌汁・ご飯・沢庵しか知らんかったのに、中華料理ありますよ、インド料理、アフリカ料理とか食べれるものの選択が増えたから、飽きずにいれましたね。
高原:
その視野が広がったのは、いくつくらいの頃だったんですか?
田辺:
それはね、20歳越えてからでしたね。インターネットがブロードバンドになりだして……ISDNとかADSLとかの時代があったじゃないですか、僕らのときインターネットってまだ今のようじゃなかったし。
高原:
そういえば、高校の三年間って私たちの世代ではYou Tubeとかないじゃないですか。どういう触手で音楽を探してはったんですか?
田辺:
TSUTAYAとか、図書館とかですね。TSUTAYAとかBOOKOFFに行ったら、ワールドミュージックコーナーとかあるじゃないですか。
高原:
はいはいはい。
田辺:
ハワイとか、ヨーロッパの音楽ばっかりの中に、たまにちょこっとポリネシアンの音楽とか、そういう珍しいどころの音楽を聞くと毎回衝撃やった。ホーミーとかインド音楽とかも、なんじゃこりゃって。しかもCDしかないから、どういう楽器でどう鳴らしてるのと思ってジャケット見たら、すごい楽器の写真が載ってたりして。何なんこれ? ってなって、図書館に行って楽器図鑑とか見たりして。
高原:
なるほど。なんかピアノ時代が優雅な大海原としたら、そこからどんどん川を遡って上流の源流まで上り詰めてみたら「うわ、他にも川ある! しかも、いっぱいある!」みたいな(笑)
田辺:
そうそう。水路が分かれてる感じ。
高原:
そこからまた冒険していく感じは、聞いてるだけで面白いです。
田辺:
そういう意味では、結構浮気性です。アフリカ音楽が好き、その道のスペシャリストの話を聞くのもすごく興味深い。けど、自分はアフリカ音楽だけでなく、例えばインド音楽やアラブ音楽も同様にとても好きです。例えばインド音楽を志す人は毎年1度、音楽修業のために3カ月インドに滞在するような生活を送られています。
もちろんプレイヤーとしてその練習が必要なのは分かっているのですが、自分には1つの様式にフォーカスする練習は向いていなくて。自分の表現に必要だと感じる各ジャンルの面白いと思うリズムやエッセンスを抽出して練習しています。幅を広げる事で薄っぺらくならないように気をつけて最大限の敬意は払いつつ良いとこ取りをさせてもらっています。
高原:
田辺さんの音に対する興味っていうのを、とにかく純粋に感じました。初めて耳にした音から、楽器への興味に繋がって、ジャケ裏見て、こんな楽器ある! って知って、図書館行っちゃう。
田辺:
そうそう。「なに? この音の出かた?」とかね。でもジレンマはあって……JAZZを志してる人やったらJAZZのCDをめっちゃ聴いて「この人のベースラインがどう」とか、「このドラムのこの部分が」とか、その部分にフォーカスしていくんですけど、僕はまず出音が先行で。とにかく出音がおかしいものに興味を持ってしまう。気になって調べていくと、例えばインドは北と南で音楽が全然違うとか、西と東も違うとか、時代によってこんなにも違うのかとか、追い切れないけどその中でまだまだ古くて新しいものがあって。そこは飽きずにいたい。
劇中使用楽器紹介

フレームドラム

フレームドラム
中東から発祥した一番原始的な形とされる太鼓。
木枠に皮を張っただけですが、深く倍音たっぷりな音色が心地良いです。

──奥の細道、その先へ

高原:
これまでの音楽とのかかわりを経て、これから音楽についてどういう想いがあるか、聞いてもいいですか?
田辺:
一言では言えないですけど、ようやく時間が決めれるようになったので、行きたかったとこ、見たかったことに優先的に時間を作っていきたいと思っています。ローカルっていうのがキーワードで、各国の異なる生活環境の中から生まれる自然なリズムやグルーヴや、生活習慣に触れていたいです。
考え方や価値観も全然違うし戸惑うこともありますが、視野が広がって思いがけず大事な答えが見つかったりする時があるので。 それをワークショップという形式で分かりやすく、間違いなくシェアしていきたいですね。あとは演奏技術レベルのアップ。生活の中で自分なりのグルーヴを見つけてフォーカスしていきたいです。
高原:
私も30代後半になって、20代と比べて責任も伴うけど自由になってできることが増え始める一方で、じゃあこれからどう繋がっていこうか、何と繋がっていけるんだろうかっていう漠然とした不安と期待、焦りみたいなのがあります。
田辺:
なんかね、僕も潰しが利かへんから。こういうスタイルは奥の細道という感じで、先細すぎて怖くなりつつもまだまだ進みたいとも思ってします。
でも最終的に細道の先の灯りはとても広い道を照らしていると信じて、自分がこんなに面白いと思ってやってることを他の人にもキャッチしてもらえるように伝えていきたいです。不安もあるけど楽天的なので、マイペースに楽しみながら細道を進みたいですね。
高原:
そうですね。行かないとわからないって冒険心は大事ですね。
田辺:
今回の劇伴も初めてやし、「やったことないし無理」っていうのもね。もちろん面白そうって思ったからやるわけで。そこからハマって面白いってなったらまた違う道が拓けるって思うから。
劇中使用楽器紹介

タムタム

タムタム
タンザニアの太鼓。毛つきの牛皮でシンプルな構造。
湿気の影響をモロに受けて音色も安定しないのですが、「ポコポコ」といかにも見た目のとおりな音色が鳴るので、そこも含めて可愛い太鼓です。

──ニット作品と音楽

高原:
今回の舞台となる「サハリン」は、どんな場所か一言で言い表しにくい場所です。でも、公演に向けて調べていくと、サハリンの資料って知られてないだけで実はめちゃくちゃあるんだなと思いました。こんなに日本と繋がりがあるんだとか、一方で、一時は日本領だったのがそうじゃなくなると、こんなに距離ができて、知られなくなって、隔たりができてしまうんだなとも思いました。
田辺:
僕はチェーホフって人も知らなかったし、サハリンのことも今回初めてちゃんと調べる機会ができて、写真集とか資料とかをごまさんに色々見せてもらって、日本とこんなに関係があって文化的にもこんな影響があったとかわかってくるとすごく面白い。ギリヤークの人たちがいるとか、アイヌの人たちもいるんやとか知って、面白いなと。
高原:
サハリンは、ロシア・日本・韓国・北方先住民族など、色んな民族や文化が集まった場所。そこに田辺さんが持っているアフリカの楽器だったり、中近東の楽器だったり、様々な国にルーツを持つ楽器の音色が加わって、さらに国際色豊かな舞台になるんじゃないかと今から楽しみです。
田辺:
そうですね。僕もどこの国の音楽っていうことでやってるわけじゃないから、情景をイメージしてやれるのでよかったなと思います。
高原:
そのコラボレーションが今回の大きな観どころだと思います。ごまさんからたくさんのオーダーがありますよね。
田辺:
めっちゃありますよ(笑)。
高原:
細かいところまで数えると19曲(笑)。4幕はほとんどずっと演奏ありますし(笑)。
田辺:
気合い入れようと思ってます(笑)
高原:
今回の曲のイメージは、台本を読んで膨らませていったという感じですか?
田辺:
そうですね。それとごまさんのリクエストですね。でも、台本読んだだけじゃすぐに具体的な情景が浮かびにくくて。俳優さんだと読むだけでイメージがパーっと広がると思うんですけど。
高原:
しかも今回は長いですし、登場人物もたくさん出てくるので、整理するのが大変だと思います。初めての読み合わせはどんなふうに聞いてはりましたか?
田辺:
台詞で掴みやすいキャラクターもあるけど、全員の役が掴めるわけではないので、空気感のイメージしかできなくて、鍛えられてる、修業させてもらってる感じでした(笑)
高原:
ごまさんの書く戯曲は、台詞の行間やシーンの流れに音楽的な動きや展開があると思うし、テンポもシーンによって変わったりします。ごまさんは台本の読み合わせの時に俳優の声を聴きながら、それこそ譜面をつくるのようにその作品の構想を練る演出家だと思っていますが、その演出の流れを作るために「音楽」が大事な要素になっていると思います。
田辺:
確かに前に参加した『カムサリ』を観たとき、そんな感じしましたね。流れとか。
高原:
『カムサリ』では楽器と演奏のアドバイザーとして関わってもらったんですよね。
田辺:
あの時は、稽古場の様子でしか見ていなかったことが、実際の舞台のセットとか仕掛けを見て、なるほどこうなるんやと思って、めちゃ感動しましたね。
ニットキャップシアター 第35回公演『カムサリ』
カムサリ
作・演出:ごまのはえ。2015年にアイホール(伊丹)と、座・高円寺(東京)の2会場で上演。「古事記」の黄泉比良坂のエピソードを下敷きに、あるアパートの住人達が台風の接近をきっかけに、それぞれ古事記と繋がる異界にアクセスしてしまうお芝居。
田辺さんは「音楽協力」として参加。
Link: 舞台写真(twitterリンク / 撮影:清水俊洋)
高原:
今回はどうなるでしょうね。
田辺:
『カムサリ』は今回とは全然違って、どっちかっていうと神様が出てくるようなぶっ飛んだ話だったじゃないですか。
高原:
台風が迫るアパートという舞台設定もあって、自然の要素も強かったですね。
田辺:
『チェーホフも鳥の名前』は史実の、歴史の話なので面白そうだなって思います。
高原:
今回参加することへの期待ってありますか。
田辺:
やったことないことだらけやから、めっちゃありますよ。演奏だけじゃなくて、演者が舞台の中心にいて、それを立体的にしていくのが音楽や照明だったりする、その初めての経験を楽しみたいですね。しかも、生演奏だし。躍らせる音楽でなく情景音楽なので。自分が気持ちよくというより、作品としてどう立体化させるのかの紐づけとして考えています。ドキドキしてきました。
高原:
ニット作品の音楽は、おっしゃる通り劇空間に立体感を生む要素です。お話を聞いていて、田辺さんの「出音」の興味と、ごまさんの音楽や音に対するこだわりは根本的なところで似た感覚があるのかもと思いました。その辺りが相性いいのかもしれないなと、私もますます楽しみになりました。